大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)899号 判決

控訴人は被控訴人に対し金二十五万円及びこれに対する昭和二十三年五月六日から完済に至るまで年五分の金員を支拂うべし。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、これを三分しその一を被控訴人その余を控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は、原判決を取消す。「被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、仮に本件貯金が控訴組合の業務の目的の範囲外の行爲であつて、控訴組合にこれを返還すべき義務がないとしても、控訴組合は被控訴人から貯金として現実に、五十万円の交付を受け、これを取得しているのであるから、民法第七百三條により不当利得として、これを被控訴人に返還すべき義務がある。控訴人の後記主張事実を否認する、と述べ、控訴代理人において、仮に訴外栗山朝二が被控訴人主張のように、控訴組合の業務の執行について、被控訴人に損害を與えたものとしても、被控訴人は、栗山朝二に本件貯金をした昭和二十三年五月一日当時芝信用組合の監事であつたから、組合の貯金の対象となる者は、組合の地域内の者に限ることを熟知しており、しかも右貯金の行われたのは異例の場所であるから、栗田朝二の不法行爲については、被害者たる被控訴人にも過失があるものというべきであり、從つて本件損害賠償の額を定めるについては、被控訴人の過失を斟酌すべきである。被控訴人の前記主張事実を否認する、と述べた外は、原審判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

原審証人秋山国藏、青木謙太郎、中西弘臣、栗田朝二、原審における被控訴本人鞍田三佐雄の各供述及び右秋山国藏の供述により眞正に成立したものと認められる甲第一号証によれば、被控訴人は昭和二十三年五月一日東京都港区芝田村町二丁目八番地の二芝信用組合の事務所で、控訴組合の理事栗田朝二(当時控訴組合本庄支店詰で從來同支店の貯金の取扱をしていた)に現金二十万円及び右芝信用組合振出の額面三十万円の小切手を交付して、金五十万円の特別当座貯金をしたことを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。尤も右栗田朝二は、右貯金を受けた以前の昭和二十三年四月二十四日に控訴組合の理事を辞任したこと、前掲証人栗田朝二及び原審証人入江郡治の証言により明かであり、從つて同人が右貯金を受けたのは理事辞任後であるけれども、同人は当時控訴組合の理事として登記されたまゝで、右辞任の登記がなかつたことは、控訴人の爭わないところであるから控訴組合は栗田朝二が当時辞任したことを被控訴人に対抗できないものといわなければならない。

依つて栗田朝二が控訴組合の理事として被控訴人から貯金を受けた行爲が、控訴人主張のように控訴組合の目的の範囲外の行爲であるかどうかを審按するに、市街地信用組合法ならびに同法施行令、前掲証人入江郡治の証言及び弁論の全趣旨により眞正に成立したものと認められる乙第一号証(控訴組合の定款)前掲証人入江郡治及び当審証人安武善藏の各証言等によれば、控訴組合は市街地信用組合法により設立された組合であるが、控訴組合の定款第二條によれば、控訴組合は控訴組合の組合員及び定款所定の組合員となることのできる者から貯金の受入をすることを業務の目的と定めていることが明かであるから、右以外の者から貯金の受入をすることは定款所定の業務の範囲に属しないものといわなければならない。然るに被控訴人が控訴人の組合員でもなく又その組合員となることができる者でもないことは、右乙第一号証の定款第四條第六條及び前掲栗田朝二及び被控訴本人の各供述に徴し明かであるから、栗田朝二が控訴組合の理事として、被控訴人から前記貯金の受入をした行爲は、本來控訴組合の業務の目的の範囲に属しないものであるといわなければならない。被控訴人は、金融業務を行う控訴組合が組合員以外のものから貯金を受入れることは、控訴組合の附随的業務であると主張するから按ずるに、市街地信用組合法、同法施行令によれば、市街地信用組合法に基ずいて設立される信用組合は市街地として一定の地域を定め、その組合員となることのできる者を、一、その市街地に住所又は居所を有する者、二、その市街地に事務所、営業所、工場又はこれに準ずべきものを有する者、三、市街地にある官公署、学校、事務所又はこれに準ずべきものに勤務する者に限定し、該組合はその組合員の産業又は経済に必要なる金融事業を行うことを目的として設立されるものであり、組合の業務たる貯金の受入については、組合員の貯金を受入れることを原則とし、組合員以外のものについては、公共団体、営利を目的としない法人その他特に命令を以て定められた者のみの貯金を受入れることができることを定めているところから見れば、同法に基ずいて設立された市街地信用組合は組合員又は命令を以て定める者以外の一般の者から貯金を受入れることはできないものと解するのが正当であるから、同法によつて設立された控訴組合が金融業務を行つているものだからといつて、組合と無関係の者から貯金を受けることを、その附随的業務であるというわけにはゆかないし、又控訴組合の定款(乙第一号証)を見ても、控訴組合と何等の関係のない者からの預金の受入を、控訴組合の附随的業務と認めるに由ないから、被控訴人のこの点に関する主張は採用することができない。然らば栗田朝二の前記貯金を受入れた行爲は控訴組合の業務の目的の範囲外の行爲で無効であるから、控訴人は被控訴人に対しこれを貯金の拂戻として返還すべき業務がないものといわなければならない。

被控訴人は、仮に本件貯金が控訴組合の業務の目的の範囲外で貯金としての効力がないとすれば、控訴組合の理事である栗田朝二は、その職務である貯金事務を扱うにつき、被控訴人に本件貯金額に相当する損害を生ぜしめたのであるから、控訴人は被控訴人に対しこれを賠償すべき義務がある、と主張するから按ずるに、法人の理事が職務を行うにつき他人に損害を加えた場合、法人が民法第四十四條第一項に基ずいてこれが賠償の責を負うのは、理事の行爲が必ずしも法人の目的の範囲内の行爲であることを要せず、その範囲外の行爲であつても、外形から観察して法人の目的の範囲内の行爲と認めることができるものであれば足りるものと解すべきところ、控訴組合は組合員及び組合員となることができるものから貯金の受入をしているのであるが、一般には控訴人の貯金受入につき、かゝる制限があることはわかつていないから、右以外の者でも控訴組合に貯金ができるものと思うのが通例というべきである。從つて控訴組合の理事が右以外の者から貯金の受入をした場合には、該貯金受入行爲は外形上控訴組合の目的の範囲に属するものと見るのが相当であるから、該行爲は民法第四十四條第一項の職務の執行行爲に包含されるものと解すべきである。故に栗田朝二の本件貯金受入行爲は、結局控訴組合の業務の執行をしたものとして控訴組合は民法第四十四條第一項に從い右行爲により被控訴人の被つた損害を賠償すべき義務がある。而して被控訴人は栗田朝二の右行爲により控訴人から金五十万円の貯金の返還を受けることができなくなつたのであるから、同額の損害を被つたものといわなければならない。然るに控訴人は栗田朝二の右不法行爲については被控訴人にも控訴人主張のような過失があるから、その損害賠償の額を定めるについては、その過失を斟酌すべきである、と主張するから按ずるに、成立に爭ない乙第二号証及び前掲被控訴本人の供述によれば、被控訴人は本件貯金をした当時、控訴組合と同様市街地信用組合法に基ずいて設立された芝信用組合の監事であり、同組合の定款にも控訴組合と同様な貯金に関する規定があることが認められるから、被控訴人としては当然控訴組合が組合員及び組合員となることのできる者以外の者から貯金の受入をすることができないことを知つているべき筈であつたものと認めるのが相当であり、從つて被控訴人が栗田朝二に対し本件貯金をしたのは被控訴人に重大なる過失があつたものというの外はない。(控訴人は右の外に本件預金が異例の場所で行われたことを被控訴人の過失として挙げているが、控訴組合が貯金を受入れる場合につき特に制限を加えていることを認めるに足りる証拠はないから、本件貯金を前記のように芝信用組合の事務所で行つたことを以て直ちに被控訴人に過失があつたものというわけにはゆかない。)而して被控訴人の右過失は本件損害賠償の額を定めるにつき、これを斟酌するのが相当でありこれを斟酌すれば、控訴人が被控訴人に賠償すべき損害額は金二十五万円とするのが相当である。

次に被控訴人は本件貯金が無効とすれば、控訴組合は被控訴人から貯金として五十万円を受領し法律上の原因なくしてこれを利得しているものであるから、被控訴人に対しこれを返還すべき義務がある。と主張するから按ずるに、前掲証人栗田朝二、秋山国藏、被控訴本人の各供述によれば、栗田朝二は被控訴人から芝信用組合事務所で本件貯金を受けたのであるが、即日これを他に使用して全然控訴組合に引渡さなかつたことを認めることができるから、反証ない限り控訴組合に何等の現存利得がないものと認むべきであり、右認定を覆すべき証拠がないから、被控訴人の右主張は理由がない。

以上認定の次第であるから、結局控訴人は被控訴人に対し栗田朝二が控訴組合の理事として本件貯金の受入により被控訴人に被らした損害の賠償として金二十五万円及びこれに対する右不法行爲のあつた後である昭和二十三年五月六日から完済に至るまで年五分の割合による損害金を支拂うべき義務があるものというべく、その他の被控訴人の請求は失当として棄却すべきである。從つて被控訴人の請求を全部認容した原判決は一部不当であるから、これを変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十六條、第八十九條、第九十二條に從い、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川昌勝 濱田宗四郎 菅野次郎)

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